技 術 資 料
3.シ ー ズ ヒ ー タ の 腐 食
{ 概要 ]
 近年シーズヒータはパイプのステンレス化が進み、その使用範囲が拡大して来るにつれて、予測できない種々の腐食事故が発生しています。
 一般にステンレス鋼の腐食は右図の様に3つの条件が重なり合ったときに発生します。
(例えば、ハロゲンイオンの存在しない環境ならば低級なステンレス鋼でも孔食や応力腐食割れ等は発生しません。また使用条件を改善したり、シーズヒータのステンレスパイプの材質を適切に選定したり、または加工処理方法を改善することで腐食の発生を防ぐことが出来ます。)
腐食の発生は使用開始から発見されるまでの期間が比較的短く、予測することは極めて困難で、極端なものは数日で起こります。(腐食事故のほとんどは使用開始後1年以内に発生しております。)
[ 腐食事故例 ]
全面腐食  (材質 SUS316L)
 
腐食性ガス加熱による全面腐食
無数の小さな孔食も発生している。
ヒータ外面部の錆の定性分析で塩素が極めて多く検出された。
孔食  (材質 SUS321)

燃焼ガス加熱用ヒータで、温度が下がった時表面に結露し、腐食性ガスと水分が反応し腐食した。(ヒータ表面に異物の付着もかなりあった)
応力腐食割れ  (材質 SUS316L)

水槽用ヒータでスケール(水アカ)の付着が多く、スケールの塩素濃度が高い。
高温腐食  (材質  SUS304)

連続長期間の空焼き使用によりヒータ表面が酸化し、皮膜剥離している。写真の割れは粒界性応力腐食割れです。


[ 腐食の分類 ]
1. シーズヒータに使用されるオーステナイト系ステンレス鋼の腐食は湿潤環境(水分をともなった使用環境)で発生する「湿食」と、ドライ環境(水分をともわない使用環境)で発生する「乾食」に分類されます。
 湿食は、ほとんど電気化学的なメカニズムで発生するのに対して、乾食は物理化学的な反応で発生します。
 ステンレス製シーズヒータに発生する腐食は下表の様に分類されます。
腐食分類 形態
湿食
(湿潤環境)
全面腐食 全体的に変色・腐食表面が荒れている状態
孔食 針状の穴があく
応力腐食割れ 割れを生ずる。網状の小割れ、孔食を起点として発生することが多い
粒界腐食 溶接等の熱影響を受けた部分の粒界に炭化物が析出し、その部分が変色してもろくなる
すきま腐食 接合面が電池作用を起こし、腐食する
乾食
(ドライ環境)
高温腐食 高温酸化でやせていく。腐食性ガスの加熱で脆化する。


2. 前項の腐食分類の各項目について進興電気の長年の経験と研究及び実績からシーズヒータにおける具体的な腐食発生のメカニズムとその対策について記述します。
@全面腐食
還元性のある酸(硫酸、酢酸、リン酸、希塩酸等)を加熱する装置の場合、濃度や温度、使用する鋼種によっては耐食性は充分でなく表面が全面的に腐食(荒れて、やせていく)する。
対策 1
 
耐食グレードの高い鋼種にする。
(Ni及びCrの含有量の多い鋼種、さらにMoを添加された鋼種等)
対策 2 使用温度を下げる
対策 3
 
薬液を攪拌する。
(攪拌することでヒータ表面温度が低下し、かなり効果がある。)
注意
 化学薬品等を加熱するシーズヒータのパイプはほとんどの場合、その耐食性については充分に吟味・検討された鋼種を使用されますが、ドライ環境で高温ガス加熱等で、そのガスの中に亜硫酸ガスや塩素ガスがあると、温度がさがって、水分・湿度が伴うと硫酸や塩酸が生成され全面腐食になることもあります。

A孔食
ヒータ表面に針状の穴があく。(写真参照) ほとんどの場合塩素イオンの存在が原因であり、一般家庭用水道水や、海水などの塩化物を含む溶液で発生する。
ヒータ表面で局部的に電池作用が発生し、陽極となった局部で孔状に腐食が進行し、パイプを突き抜けてしまう。
(×100)  孔食部
対策 1 耐食グレードの高い鋼種にする。
(特にMoを添加した鋼種が効果があります)
対策 2
 
ヒータ表面を清浄にする
(ヒータ表面に異物が付着しないようにすることで、かなりの効果があります)
対策 3 使用温度を下げる
対策 4
 
 
溶液を攪拌する
(攪拌することでヒータ表面温度が下がり、水の場合表面沸騰が無くなる。さらに、ヒータ表面の異物の付着が少なくなり、沈でん物等による塩素イオンの濃縮が少なくなる。
対策 5 電気防食を施す
〔湿食の場合、そのほとんどが電気化学的なメカニズムで発生することから犠性陽極を用いる電気防食法があります。
イオン化傾向がステンレスよりマイナスになる金属(Pb、Sn、Zn、Al、Mg等)を犠性陽極として液中接触させることでステンレス製シーズヒータの電気化学的腐食(孔食、応力腐食割れ、粒界腐食等)を防止する。(100%完全ではないが効果は期待できる)
溶液を飲用に供する場合は人体に害をおよぼすZn、Pb等は使用できません。〕

B応力腐食割れ
 シーズヒータのパイプに引張応力が存在し、かつ腐食環境で使用された場合に発生します。
応力腐食割れによる事故は、割れの発生が発見されるまでの使用期間が比較的に短いのが特長で早いものでは数日で発生し、ほとんどの場合使用開始後1年以内に事故が発見されている。応力腐食割れは割れが徐々に進行するのではなく、短期間に突如発生する。
 シーズヒータのパイプの応力とはヒータ製造工程での加工による残留応力や使用中の熱膨張歪による応力等であり腐食環境条件については、当社で調査した数々の実例ではほとんど塩素イオンの存在が原因で、割れの発生している部所からは高濃度の塩化物が検出されている。
(×50)
 特に注目すべきは、一般家庭用水道水等に含まれる塩素イオン濃度は極めて低いレベルであり、ステンレス鋼に対してほとんど腐食作用を持たないが、シーズヒータで水加熱する場合、塩化物の濃縮という過程が問題になります。
 塩化物の濃縮は、ヒータパイプの表面へ沈着したスケール等の細隙に流入し、その蒸発が繰り返されることで生じます。
 また、事故例の多くは孔食を起点として応力腐食割れを起こしているものも多く、これは孔食内の腐食環境の変化が起因して応力腐食割れにいたったものです。
対策 1 耐応力腐食割れに有効な鋼種にする
(Ni含有量の多い鋼種が有効で、さらにMoとCuを含有する鋼種が耐応力腐食割れに良い)
対策 2 使用温度をできるだけ低くする
(50℃以下ではほとんど応力腐食割れは発生しない)
対策 3 ヒータ表面を清浄にする
(沈着するスケール等を定期的に排除する)
対策 4 シーズヒータ製造工程に発生する残留応力を除去する
(応力除去熱処理、又は固溶化熱処理を行なう)
対策 5 ヒータ製造工程の熱影響(溶接等)による粒界腐食を起因とする粒界性応力腐食割れを防ぐために粒界に炭化物の析出の少ない低炭素鋼を使用する
対策 6 シーズヒータの表面電力密度を下げる
(表面電力密度を下げることでヒータの表面温度を下げることができ、表面沸騰等もおさえることができる。さらにシーズヒータの内外面の温度差が縮むことで熱膨張歪の応力も少なくなる)
対策 7 電気防食を施す

C粒界腐食
 シーズヒータに使用されるオーステナイト系ステンレス鋼は500〜850℃の温度範囲に加熱された場合、クロームと炭素が反応して結晶粒界にクロム炭化物(クロームカーバイト)が析出し、炭化に消費された量だけ粒界近接部のクロームが減少欠乏し、その部分の耐食性が低下して発生する腐食である。
 シーズヒータの場合、溶接をした場合の溶接熱の熱影響を受けた部所に発生しやすい。
 
(×400)
正常な組織   結晶粒界に
  炭化物
対策 1 固溶化熱処理を行なう
(1000℃以上に加熱してから急冷して析出したクローム炭化物をオーステナイト地に固溶化させて、もとの均一な組織に戻すことである。)
対策 2 粒界にクローム炭化物の析出を少なくするために炭素の含有量の少ない鋼種を選定する。(例 SUS−304L、SUS−316L)又はクロームとの親和性が炭素より強いニオブやチタンを添加した安定化鋼を使用する(例 SUSー321等)
対策 3 溶接の二番などの過熱影響を受けた部分は、大なり小なり炭化物の析出はまぬがれず、粒界腐食に対する劣性はあるがすべての環境で腐食するわけではない。
いたずらに固溶化熱処理を行い不十分な温度に加熱したり、冷却方法を誤ったりして逆に炭化物を析出することもあります。したっがて、シーズヒータの場合使用される環境にあわせて鋼種を選定し、溶接などの熱影響を受ける場合は熱影響を最小限にできる作業改善等を行うことが効果的です。
対策4 電気防食を施す

Dすきま腐食
 温水容器等に取り付けたヒータのパッキングシール面とか、溶液の流れの悪い死角部等のすきまに生ずる腐食で腐食の形態としては、全面腐食、孔食、応力腐食割れです。
 すきま腐食は通常塩素イオンを含む溶液中で溶液の流れの悪い死角では異物の沈着等もあり、酸素不足となり、溶存酸素の濃淡による電池作用が起因して発生します。
 また、異種金属が接触する場合、イオン化傾向の大なる方が陽極となり電池作用を起こして腐食する。
対策 1 腐食の形態に応じた鋼種を選ぶ
(一般には耐孔食に有効なMoを含有した鋼種が良い。)
対策 2 構造上の改善
(構造上隙間を無くすことで、すきま腐食を防ぐことができます。ガスケットを使用する場合はすきま腐食に強い物を選ぶ)
対策 3 電気防食を施す

E高温腐食
 湿食と異なり水分や湿気の無い高温の腐食で、シーズヒータの場合使用温度と腐食環境(ガス)でそれぞれ異なる腐食形態をとる。
 空気中で赤熱して使用されるヒータは表面が酸化し酸化皮膜の剥離等でやせ細る。
 高温ガス腐食ではガスの種類により異なる。炭化水素のガスは浸炭が進み脆化する。アンモニア系のガスは水素脆化を起こしてもろくなる。亜硫酸ガスや塩素ガスは露点以下の温度では水分をともなって硫酸や塩酸となり湿食が発生する。
外面表層部は酸化皮膜を形成し、剥離しかけている外面に近いほど炭化物の析出が進んでいる。
対策 1 耐酸化性の鋼種を選ぶ
(Ni及びCrの含有量の多い鋼種、SUS−310、インコロイ800系、インコーネル600等)


まとめ
 シーズヒータに使用されるオーステナイト系ステンレスの腐食については以上の通りです。(フェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレスはシーズヒータ用として使用しないので除いています。)特に「対策」に関しては、進興電気の長年の研究と実績を基にしております。
 シーズヒータ腐食は冒頭に述べたように3つの条件が重なり合った時に発生します。
いたずらに高級な材料を使用したからといって100%の保証はありません。むしろ高級な材料(高Ni、高Cr鋼等)ほど特殊な加工方法が必要となり、取扱いをまちがえると別のクレームの原因ともなりかねません。
 シーズヒータの腐食事故の多くはヒータ表面にスケールの付着や異物の沈着が認められます。用途に応じた材料と適切な加工方法で製作されたシーズヒータであるならば、ヒータ表面が常に清浄になるような改善を行うことで大半の腐食事故は防ぐことができます。


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